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■評価と不安が交差する労働改革・・・労働者派遣法改正案
 
       
2015年6月26日    安倍政権の成長戦略の一環で、これまで2度も廃案になった労働者派遣法改正案が衆議院本会議で可決された。そもそも例外的な働き方と位置づけられ、労働省令で専門26業務に指定され、それ以外の業務は原則1年まで、例外的に3年までの期間を区切ってきた派遣法を全面的に解禁するというのが今回の改正案である。
 つまり、受入れ側の企業にとっては、これまでのように期限を定めることなく、いつまでも派遣を使い続けることができるようになり、臨時的で不安定な雇用が世の中で常態化することになる。また、改正法案では「同じ職場で同じ労働者を3年までしか使ってはいけない」という新ルールが導入される。この新ルールによって、派遣労働者は3年ごとに職場を変えさせられるか、派遣契約を打ち切られることが予想されている。労動組合側は、派遣労働の固定化につながると反発を強めている。
 一方、派遣労働の大きな利点は、直接雇用だけで対応できない労働需給のミスマッチを改善し、雇用の総量を増やすことにある。改正反対派が主張する派遣の規制を強めても、より条件の良い直接雇用の機会が増えるという保障はどこにもない。むしろ、企業は雇用を保障できる範囲に正社員数を抑制することも考えられる。また、派遣労働は雇用が不安定と批判されることが多いが、それをいっそう不安定にさせているのが、派遣期間制限であるといった指摘もある。本来、派遣労働者を保護するための法律だが、果たして派遣労働者にとって、どんなメリットがあるのか考えてみたい。

 人材派遣の歴史
 戦前の日本でも、小林多喜二の小説「蟹工船」に登場する斡旋屋や上方落語の大ネタ「口入屋」など、労働者を送り込んで働かせる業者が存在した。勿論、現在とは違い雇用関係や責任などは曖昧で、不当な中間搾取が横行し、タコ部屋など労働環境は劣悪なものであった。戦後の民主化の流れの中で労働者供給事業は全面禁止され、職業安定法に明記されているのは、このような歴史が背景にある。
 アメリカで広まっていた人材派遣サービスが、日本に登場したのは1966年のマンパワー・ジャパン設立以降とされている。バブルへと突き進んだ1980年代に入ると、派遣を合法化してきちんと管理した方が労働者保護につながるという考えが主流となり、1985年に労働者派遣法が成立し、翌年から施行された。ここから日本における人材派遣の歴史が始まる。
 派遣法施行後は、人材派遣市場は順調に拡大していった。その後のバブル崩壊、金融危機、デフレの長期化といった低成長期に直面すると、産業界からは直接雇用の人件費(固定費)を人材派遣の活用により変動費に置き換えたいというニーズが高まり、対象業務の原則自由化(1999年)や製造派遣解禁(2004年)といった、景況や産業界からの要請によって変わっていく法体系にも注目していく必要がある。
 拡大路線から一転したのは2008年のリーマンショック以降である。製造業を中心に派遣切りや雇い止め、人材派遣をめぐる違法行為が相次いで発覚した。また、職も家も失った若者が日雇い派遣で生計を立てながらネットカフェで寝泊まりするような状況が注目され、若年層の貧困化やワーキングプアの存在などが急激に社会問題化した。こうした社会問題の一因に人材派遣という雇用スタイル(働き方)があるのではないかという議論が高まり、2012年10月施行の改正派遣法では、労働者保護、直接雇用の促進などを強く意識したさまざまな規制強化が打ち出されたのである。

 派遣法改正で何が変わるのか
 今回の見直しでは、…面や秘書など派遣期間に上限のない「専門26業務」の区分が撤廃される。一方、一般業務の派遣期間の上限を「個人」ごとに最長3年にする予定である。従って、企業は働く人を交代すれば同じ職場でずっと派遣社員を受け入れることができる。もう少し分かりやすく説明しよう。
 現行法は、原則として臨時的・一時的な業務に限って派遣社員を使うことができることになっている。従って、現行の派遣法では、1つの業務で派遣社員を使える期間は最大で3年と制限されている。これは業務単位でカウントするので、誰かが同じ業務で既に2年間派遣社員として働いていれば、企業はあと1年しか派遣社員を使えない。そして、この3年という期間が過ぎてしまえば、その業務は派遣社員ではなく、直接雇用した社員にやらせなくてはならない。
 こうすることで直接雇用を派遣労働者に置き換えることを防ごうとしているのである。実際は、脱法的なことが多発しているが、法律上はこうなっている。
 では、今国会に出された派遣法改正案はどうなっているだろうか。
 現行法の業務単位での3年間というカウント(期間制限)はやめて、人単位でカウントすることになる。 具体的には、既に誰かが派遣労働としてその業務についていても、それとは関係なく3年間働くことができる。 そして、3年経てば、企業は他の派遣社員に入れ替えれば(但し、派遣社員が派遣元の正社員になれば期間の制限はなくなる)、永遠に派遣労働者を使い続けることができるようになる(派遣の受入れ開始から3年を超えて派遣社員を使う場合は、労働組合の意見を聞く必要がある)。
 つまり、直接雇用の正社員には解雇権濫用法理(労働契約法16条)があるので、企業は簡単に切れないが、派遣社員に対しては派遣元企業と派遣先企業の間で労働者供給契約の解約や不更新がなされれば、解雇権濫用法理も雇止め法理も関係なく、容易に切ることができる。この減らしやすさをもって「雇用の調整弁」と呼ぶことがあるが、将来的には正社員が減り、派遣労働が増えることが予想されることから、派遣法改正案が「正社員ゼロ法案」と非難されている。だが、視点を変えれば「正社員保護法案」ともいえないだろうか。

 派遣法改正で派遣者にどんなメリットがあるか
 今回の派遣法改正案は2度も廃案になるなど混乱を極めた。しかし、現行の派遣法自体が既に形骸化(脱法行為の常態化)していることを直視せずに、改正案を批判するだけでは労働者は就業が困難になるだけである。経済のグローバル化や人口減少下における雇用・労働政策として派遣という働き方の役割(多様な人材の柔軟な働き方)と派遣労働者の利益を基準にして、今回の改正法の評価を行う必要がある。
 では、間接雇用である派遣労働には、どのような問題があるのだろうか。一般的に以下の3点が指摘されている。
 第1は、間接雇用の派遣の場合、責任の所在が曖昧になるといわれている。例えば、職場の安全面をとっても、正社員であれば安全の確保や教育など、企業は本気に考えて徹底するが、派遣の場合にはどうしても疎かになり、実際に労災にあう派遣社員が増えている。
 第2は、間接雇用の場合、いつ切られるか分からない―という非常に雇用が不安定である。
 第3は、派遣会社が派遣先との間に入るので、中間マージンが必然的におこり、労働者の手取り額がその分だけ少なくなる。間接雇用の弊害だといわれている。
 それでは、派遣という働き方自体が「悪い働き方」だろうか。雇用が不安定になるという指摘は、派遣が禁止されれば、別の雇用形態の社員がその身代わりにならないだろうか。不況期の雇用調整は、適切な金銭補償で行うことが先進国共通のルールである。しかし日本では、不況期にも雇用が守られる正社員と、その犠牲になる非正社員という「身分格差」が存在する。そもそも公平な雇用調整ルールを作らずに、派遣を含む非正規社員を無期雇用化すれば、全員の雇用が安定化するというのは解雇権濫用法理に守られている正社員の論理に過ぎない。その点で、従来の専門26業務が3年間の派遣期間に制限され、派遣会社の無期雇用社員に変わるように促すことは大きな意味がある。同じ無期雇用の派遣社員であれば、派遣先の正社員と同様に、職種や期間の制限がなくなる点でも、そのメリットは大きい。
 次に、派遣社員の待遇の問題だが、わが国では、終身雇用制を維持する対応策の一つとして職種を特定せず、どんな職種の仕事もこなせるよう配置異動を弾力的に行えるようにした結果、職種基準労働は極めて限られていた。そのため、派遣労働でも対象となる職種の職務内容の定型化、標準化の度合いが全般的に低く、個人差の入る余地が大きいだけでなく、職務の広まりや深まりもきわめて大きい。しかし、これまでの派遣労働に対する一般的な考え方は、正社員より低くてよい、といった傾向が強かったが、これは適切ではない。今回の派遣改正法では、派遣社員と正社員との均衡化に向けた第一歩(「均衡」のとれた待遇=まだ賃金格差の許容にとどまっているが)といえる。
 さらに今回の法改正で派遣事業者はすべて許可制となり、労働・社会保険への加入もチェックされ、派遣労働者のキャリアアップ支援も義務化されている。加えて、有期雇用を5年繰り返した場合に無期雇用の申し込みが義務化されているので、派遣元で雇用される道もある。

 望まれる派遣のルール化
 そもそも人材派遣は、企業の労働力活用の柔軟性を高め、職が得にくい人に職が得やすくする、という点で社会的な意義がある。一方、現行の仕組みでは派遣労働者の処遇が低く、キャリアアップも難しいという問題がある。また、正社員の仕事が処遇の劣る派遣に置き換わる、いわゆる常用代替の可能性があるといったデメリットもある。派遣の持つ社会的なメリットを活かしつつ、デメリットをなくすためには、派遣事業は自由化する一方、派遣労働者の保護は強化するという複眼的な視点がいる。そうした観点からすれば、今回の派遣法改正は、業務に対する規制を緩め、派遣労働者の保護を強化しているわけで、基本的には望ましいものといえる。しかし、不十分な面も残っている。
 とりわけ、派遣事業者のキャリアアップ措置が名目的なものにとどまれば、派遣労働者の実質的な保護は行われない。そのほか、同一業務への派遣期限の上限は原則3年とし、派遣先における労使が認めれば派遣期限の延長・短縮が可能になるとしていることにも不安(労使の力関係で決まる可能性がある)がある。無期雇用派遣の場合は期間規制から外れるが、派遣労働者と派遣先労働者との処遇均等が図られなければ、常用代替の可能性は残る。
 要は、派遣事業者や個別労使の取り組みに任せる形にしているため、社会全体でみて人材派遣という雇用形態が、望ましい形で活用されるかどうかはわからないのである。
 では、どのような見直しが望ましいのか。常用代替を避ける形で派遣を積極活用する一方、派遣労働者の保護がきちんと担保される仕組みを社会全体で作ることが必要だ。それには、例えば4年以上派遣労働者として働く場合は、特定分野の専門職として職業能力認定をしてはどうだろうか。同時に、能力認定制度の能力レベルごとの賃金データを整備・公開し、処遇均等が実現しやすい環境を整えるのである。それによって、派遣労働者と正社員の賃金格差がなくなれば、人件費削減のみを目的にした派遣活用は意味を失い、自ずと常用代替は起りにくくなる。さらに、4年以上の派遣労働者は原則、派遣事業者が限定正社員として雇うのもよい。そうすることで、仕事のない期間は休業手当が支給され、派遣労働者の生活を安定化させることができる。そのための財源は、派遣事業者と派遣ユーザー企業が派遣手数料の一定割合を基金として積み立てるのである。
 このように派遣事業の社会的意義を認めたうえで、派遣労働者の保護が実質的に確保されるような仕組みづくりが望まれているのではないだろうか。
   


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