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■ナレッジ・マネジメントからナレッジ・イノベーションへ
 
       
2014年9月26日    今年の小事務所コラムの通年テーマはイノベーションである。その理由は、いま戦略論の流れに大きな変化が起きているからである。これまでの戦略論の主流はマイケル・ポーターに代表される経済学ベースの戦略論(トレードオフの認識とその選択)であった。しかし、グローバル化や技術の高度化・複合化によって環境の変化がますます加速し、企業が競争優位を確保し続けることが困難になってきている。むしろ、一時的な競争優位を獲得すると、それにしがみつきイノベーションの継続を妨げる原因にもなる。
 イノベーションというと、企業変革とか、ピンチからの脱出、といった本業以外、あるいは一時的な新製品・新技術の開発といったイメージが付きまとう。だが、環境変化の激しい現在、企業に最も求められているのは柔軟性、つまり常に新たな競争優位の獲得に取り組むことである。そのためには、常にイノベーションを経営戦略の中心に据え、短期的な成果だけを追い求めるのではなく、辛抱強く企業戦略の核としてイノベーションに取り組むことが大切である。
 近年、再び耳にする機会が多くなってきた言葉に「ナレッジ(知識)」がある。組織内の知識を共有し活用することを目的とするナレッジ・マネジメントから、市場など外部の知識を組み込んだ組織学習と知識創造プロセスを促進するナレッジ・イノベーションへとパラダイム・チェンジしての再登場である。イノベーションはしばしば、ナレッジの組み合わせから生まれるといわれるだけに、ナレッジ・イノベーションについて考えてみたい。

 経営資源としての組織内外の知識(ナレッジ)
 企業という組織の内部と外部には、様々な知識が存在している。例えば、企業の内部では、業務に必要な知識が社員によって保有されている。また、個々の社員にではなく、業務手続きや業務マニュアルとして組織に埋め込まれている知識や、顧客情報としてデータベースに蓄積されている顧客に関する知識もある。さらには、企業が自ら開発した技術知識、あるいは獲得した技術知識は、特許などの知的財産権として保有されている。
 企業の外部にも、様々な形で有用な知識が存在している。潜在的な顧客ニーズに関する知識や企業に対するコーポレート・ブランドとして、顧客の中に定着している知識がある。それらも、企業にとっては経営資源としての意味を持つ顧客側の知識と言える。また、競合他社に関する知識も開示された情報という形で存在しているし、大学や研究機関が生み出した技術知識も経営資源として活用することができる。
 ここまで知識の範囲を広げてくると、知識と情報とがやや混濁してくる。そこで、知識と情報の違い、および両者の関係を理解しておくことが重要になる。
 まず情報とは、何かを知るための手掛かりとなるものである。そうした手掛かりである情報は、個々人の行動や関心とは無関係に、日々どこかで膨大な量が生成されている。一方、自分にとって必要で自ら収集した情報は、それを実際に活用する段階では個人の知識になる。つまり、情報を集めるという行為や知識があるという状態は、そもそも情報とは異なり、人間の存在を前提にしているのである。
 したがって情報は、それを必要とし活用する人間が存在しなければ、いくら生成されても無価値である。だが、ある情報が多くの人々に必要とされ、知識として活用されればされるほど、その情報を活用した人の数だけ新たな価値の創出をもたらす。この点が、お金や土地などの経営資源とは大きく異なる、知識という経営資源が持つ特性である。

 ナレッジ・マネジメントのパラドックス
 ナレッジ・マネジメントは、1990年代後半に欧米で注目され、その後に日本企業の間にも普及してきた。科学技術政策研究所(文部科学省)の調査(1998〜2001)では、ナレッジ・マネジメントの実施に取り組んだ企業の割合は全産業平均で20%に達していた。
 知識という経営資源の特性についてはすでに前述したが、その重要性に関する指摘は「断絶の時代」(ドラッカー、1969)の中でも言及されている。だが、実際に先進諸国の企業において推進されたことは、知識というよりも情報を増大させるだけの取組にすぎなかった。70年代には、業務プロセスへのコンピュータの導入が進展し、「情報化社会」という明るい将来のイメージとして提示された。その後も、情報技術(IT)は目覚ましい進歩を遂げ、インターネットの普及と相俟って、膨大な情報量を企業にもたらした。この間の情報化の流れは、生産性を飛躍的に向上させることが期待されていたが、実際には、その逆の現象がしばしば発生した。
 情報は知識とは異なり、それを必要と人間の存在を前提とせずに生成する。このため、IT化の導入による膨大な情報の量は、その中から必要な情報を探索することを困難にし、却って業務効率を悪化させるという事態が起こった。このような現象を「情報化のパラドックス」と呼ばれている。こうした問題を回避するには、単に情報の量を重視するのではなく、意味のある必要な情報に着目し、それを知識として活用し、蓄積していくことが重要なのである。

 模倣困難な経営資源とダイナミックな組織能力
 マイケル・ポーターのポジショニング理論と並んで、経済学ベースの戦略論のもう一つの代表格として挙げられるのが、経営資源(リソース)に基づく資源ベース論である。市場での厳しい競争を勝ち抜くには、企業は人材やブランド力、専門能力など、組織内にある経営資源を活用すべきとするのが、「企業戦略論」のジェイ・バーニーである。この戦略論では、同一の環境条件の下におかれた複数の企業が常に同じ競争戦略を採るとは限らないことに言及している。なぜなら、全ての企業が戦略の実行に必要な経営資源を、保有しているわけではないからである。ジェイ・バーニーはその具体例として、組織の中に埋め込まれたノウハウ、その企業に対する顧客の信頼・ロイヤリティなどを挙げている。このような経営資源は、長期的に一貫した学習プロセスや投資によって蓄積されるものであり、競合他社が模倣しようとすると、相当の時間的コストがかかることになる。また、市場での取引を通じて調達できるものでもない。そのため、競合他社に対する参入障壁として機能することにもなる。
 こうしてジェイ・バーニーは、戦略の模倣困難性の問題を、他社が模倣するには時間がかかるという論点を挙げている。模倣に対する時間的なリードによって、競争優位の持続する時間を説明している。だが、そもそも「持続性」とは、どの程度の時間の長さによって定義されるのかという肝心な点は説明していない。企業が生産する製品やサービスの寿命は、その業種ごとに異なってくる。半年くらいの短い期間で新製品が投入される分野もあれば、10年以上に亘って製品の基本仕様が変わらない分野もある。したがって、一口に持続可能な時間と言っても、競争戦略上、意味のある時間の長さは、製品分野ごとに異なってくる。
 ポジショニング理論と同様に資源ベース論もまた環境の変化を考慮せずに、模倣困難な経営資源の特質を論じているわけだが、ある経営資源の戦略的な重要性は、環境が変化しても普遍であるとは限らない。ここに経済学ベースの戦略論の限界がある。では、環境が変化する中にあって、「何が」競争優位を持続させる要因になるのであろうか。
 ゲーリー・ハメルとC.K.プラハラードは、経営資源それ自体の異質性ではなく、他社には真似のできないような中核能力(コア・コンピタンス:経営資源を組み合わせる能力)が重要であることを、「コア・コンピタンス経営」で指摘している。また、デイビッド・ティースらは、市場の変化に対応して経営資源を統合したり、再構成したりできる能力を、「ダイナミック・ケイパビリティ」として挙げている。そして、模倣困難な経営資源の本質とは、つまるところ知識であり、また環境変化に対応するダイナミックな組織能力の提供も、また知識であるということが分かってきた。

 ナレッジ(知識)の移転・共有の方法と発想方法の支援
 知識を経営資源としてイノベーションを起こしていくには、知識の「移転」と「共有」という二つが重要になってくる。知識移転とは、人から人に、あるいは組織から組織に知識が伝えられることを言い、その結果として、それらの個人間、組織間で知識が共有されることになる。したがって、知識移転は知識共有を成立させる要因といえる。
 「ハーバード・ビジネス・レビュー」(ティアニー等、1999)の論文の中では、知識共有の二つの戦略を提示している。「コード化戦略」と「個人化戦略」と呼ばれるもので、この戦略類型は、その後、ナレッジ・マネジメントの文献の中で、頻繁に引用されている。このうち「コード化戦略」とは、可能な限り知識をデジタル化してデータベースに蓄積し、組織のメンバー全員が容易にアクセスできるようにする戦略である。この戦略には形式知の再利用による経済性を追求できるというメリットがあるが、多額のIT投資を必要とする。
 もう一方の「個人化戦略」とは、人と人との直接対面によって知識を共有させる戦略である。この戦略は、個人間のネットワークによって暗黙知の共有を図ろうとするもので、知識の専門分化を深めることで経済性を追求できるというメリットがある。コード化戦略のような巨額のIT投資は要しないが、直接対面による対話の促進に要するコストがかかる。
 ここで注意したい点は、「コード化戦略」によって知識共有を可能にするのは、形式知(既存知)の共有に限られるということである。では、イノベーションに大切な暗黙知(潜在知)の共同化を支援するには、どんなインフラを整備すべきであろうか。この課題に対する処方箋として、しばしばピーター・センゲ等が提唱する「学習する組織」(learning organization)が紹介されている。それは個人ではなくチームを学習の単位とし、個々の相互関係から全体を捉える「システム思考」を中心とすることによって、学習能力を持った組織を構築しようとするものである。
 ナレッジ・イノベーションの究極の課題は、新しい知識を創造し(暗黙知→形式知→形式知の連結→新暗黙知)、イノベーションを実現していくことにある。そのための代表的な取り組みとして、「発散的思考支援」と「収束的思考支援」があるといわれている。発散的思考支援とは、ある課題に関連する知識を、できるだけ幅広く大量に抽出する思考作業を支援することをいう。その代表的な方法は、「ブレイン・ストーミング法」である。また、もう一方の収束的思考支援とは、こうして出された様々なアイデアを、まとまりのあるものに集約する思考作業を支援することをいう。その代表的な技法として、「KJ法」がしばしば挙げられてきたが、近年は「デザイン・シンキング」が注目されている。
 経営資源としての知識には、物的な経営資源とは異なる重要な特質がある。それは目に見える実体を伴わないということである。経営思想の中には、測定できないものは管理の対象にできないという見方もあるが、ナレッジ・イノベーションは、このような考え方に与しない。目に見えず、測定できなくとも、刀工や宮大工の世界のように重要な資源としての意義を持つ知識は確かに存在する。ナレッジ・イノベーションの意義は、そのような見えざる経営資源に対する洞察力を企業に提供することにあるといえるのではないだろうか。イノベーションの起点は知識であり、人である。常に知識を時代の変化にあわせて修正・向上し、スキルやノウハウの陳腐化を食い止める努力を不断に行う企業だけが、世界的なサバイバル競争の中で生き残れるのではないだろうか。


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